部門別業績管理の重要性

企業経営において、社長が戦略的な意思決定や経営資源の配分を行うためには、自社の収益の源泉とその状況を的確に把握しなければなりません。
また公平な業績評価や人事考課を実現するためにも、利益の源泉となる最少の事業単位別に損益を把握しておく必要があります。制度会計上作成される全社合計の財務諸表や試算表では、戦略的な意思決定を行ううえで限界があるといえます。

部門別業績管理の目的

最小の事業単位を設定する際には、従来からの部門別や営業所別という考えにとらわれずに自由な発想で営業活動の採算性を見ていかなければなりません。つまり、何が自社の収益に貢献していて、何が損失を出しているのかがわからなければ、社長は業績向上のための戦略が策定できず、また、社員の適性な処遇を行うための情報を得ることができません。
部門別業績管理の目的は次のようにまとめられます。
①業績の動向をつかみ、直ちにその対応策をとることができる。
②予算実績対比で未達原因を究明し、対策をとることができる。
③どの部門で利益が出ていてどの部門で損失がでているかを明確にすることができる。
④社員一人当たりの経営効率を把握することができる。
⑤商品別の原価分析や収益分析の基礎資料として、売上拡大や利益率の向上のための戦略に活用することができる。
⑥全社員の利益意識、または原価意識を高めることができる。
⑦部門別の利益貢献を測定し、公平な業績評価の尺度とすることができる。

部門別業績管理の効果

月次決算を中心として、それに関連した部門別目標管理やグループ別組織などによる全員参加の積極的改善制度、相互啓発による能力開発制度、利益貢献に報いるための業績賞与、成果配分制度など、部門別業績管理が生み出す効果については次のようなものがあります。
①月別及び累計値の部門別損益と全社損益が把握できる。
②部門別に売上高、限界利益、経常利益などの達成状況を把握できる。
③部門別の在庫の増減が把握でき、在庫管理が徹底する。
④部門別の資金の収支状況とキャッシュフロー実績が把握できる。
⑤部門別の月次損益を社内で公開することにより社員の利益意識、原価意識を高めることができる。
⑥目標達成のため全員が積極的に創意工夫するようになり成果が大きくなる。
⑦本社、間接部門を含めて、全社的に組織の活性化が促進される。
⑧各部門で独立採算的利益管理を行うため、経営者意識が高まり、人材育成に役立つ。
⑨定性的人事考課要因とは別に、計画と実績数値を中心に管理するので定量的管理要因による部門別、個人別業績管理評価が公平に行える。

部門別管理の具体的導入方法

中小企業において部門別管理を導入しようとすると、最初から完璧を目指してしまうことによって途中で挫折することが往々にしてあります。
そもそもの目標は、それぞれの部門の業績の把握と全社の業績の把握を同時に行うことです。
そのためには数千円の消耗品をA部門に負担させるか、B部門に負担させるかでそれほど悩む必要はありません。
部門別業績管理の導入のポイントをまとめると次のようになります。
①とりあえず損益計算書のみの導入とする。
②まず、売上総利益までの科目(売上・仕入・在庫)を部門分けする。
③次に、人件費科目を部門分けする。
④次に、広告宣伝費や地代家賃などその会社ごとの重要科目を部門分けする。
⑤不明なもので重要性の乏しい費用は本社部門などの共通費とする。
⑥本社部門などの共通部門経費は、月末に一括で「本社費」などの科目で各部門に配賦する。
⑦独立部門の設定の基準は原則自由(店舗、事業所及び商品等)ですが、売上総利益率の異なるごとに部門をわけることが望ましい。
部門別業績管理の導入時には、貸借対照表項目(現金預金や売掛金、買掛金等)を部門分けする必要はありません。収入や費用が計上されている損益計算書項目のみをとりあえず部門分けしてください。
そして、損益計算書の中でもまずは売上総利益までの科目つまり「売上高」や「仕入高」、「外注費」、「在庫」のみを部門科目設定してみましょう。
次に人件費科目、それから、広告宣伝費や配送運賃、クレジット等による回収費用、地代家賃などその会社ごとに重要な科目に部門別管理の幅を広げていくことをお勧めします。
部門別業績管理を進めるにあたって、経費科目を分けることに悩まれることも多いかと思います。
その解決方法のひとつとして、請求先に連絡をして、今後の請求書を部門別に集計してもらうように依頼することも検討してみてください。意外と簡単に応じてくれることも多いようです。
また、もうひとつの解決方法として、金額が僅少で重要性の乏しい経費は本社部門などの共通部門に集計するとルール決めするのもよい方法です。あくまでも目的は、部門別の業績の把握であることをわすれないようにしてください。その目的からは数千円の経費をどの部門に負担させるかは大きな問題ではないというはご理解いただけるでしょう。